研究内容

研究テーマ

1. マウスの発生工学と遺伝子操作マウス開発に関する研究

ヒトやマウスには23000から27000といわれる遺伝子が存在します。しかし、それぞれの遺伝子の機能はまだまだ解明されていません。遺伝子の機能を知りたければ変異体を単離するのが一番手っ取り早いと言えます。大腸菌などの一倍体の生物とは異なりマウスなどではそう簡単ではありません。そこで1980年代には遺伝子導入マウス(遺伝子機能を付加する)の方法が出てきました。ついで1990年代にはマウス胎生幹細胞を用いて遺伝子変異マウスを作製する(遺伝子機能を失わせる)方法が盛んとなりましたが、結構手間と時間がかかる難作業でした。ところが最近はCRISPR/Cas9法が出現し、マウスでもその受精卵にこれを適用することにより、20日待てば簡単かつ高率(10%-50%)に変異マウスが得られる時代となりました。現在はこの方法を用いて種々の遺伝子の機能解析を進めています。

2. Neuropathy Target Esterase(NTE)に関する研究

新築の家に1ヶ月ほどすむと頭痛や倦怠感などの症状が現れてシックハウス症候群の症状を呈する方がおられます。環境要因としてはホルムアルデヒドなどの揮発性化学物質が主因で、現在建築基準法で13物質に指針値が示されています。我々の研究でこれらの疾患の方の単球ではNTEの活性が高い傾向にあることが判明しました。揮発性化学物質の一つである有機リンは遅発性の神経障害を引き起こすとされ、それにNTEは深く関わっていると思われます。我々もこの点を解明すべく、TGマウスとCRISPR/Cas9法によるマウスホモログ遺伝子変異マウスを作製し、行動解析などを始めています。現在では遺伝子発現が多すぎても、あるいは変異型のNTEが発現することによっても歩行距離、活動性などに差が出てきており、NTEは全身性に発現するタンパク質ではあるものの、適度な量を適した場所で発現することが必要なタンパク質ではないかと思っています。ちなみにNTEはバクテリアからヒトまでアミノ酸配列の保存性が高く、このタンパク質が進化的に保存されてきたのには何か重要な意味があると思って研究を続けています。また、この遺伝子機能を知ることによって、シックハウス症候群の診断などにトライできると確信しています。